第38回口頭弁論報告

鋭く切り込む弁護団 証言にたびたび窮する四電社員

こうやって裁判所門前まで歩くこと38回目

 11月21日(火)13時15分開廷で伊方原発の運転差止を求める裁判の第38回口頭弁論が松山地裁で行われました。裁判所による37席の一般傍聴券を求めて四電側を含めて96人が並びました。

傍聴券の抽選を待つ人々 今回は背広組も多い
一般傍聴券の抽選が終わって

 裁判所前の路上では、今回も香川から駆け付けて下さった尾崎宗璋・憲正ご兄弟が「立証責任は原子力事業者にある」、「利権の原発 権利の反原発」などのバルーン、横断幕などを駆使して、係争中の伊方原発について市民に力強く訴えて下さいました。 

い得て妙
道行く車にもアピール
小学生もバルーンの言葉に目をとめながら

 原告席には薦田伸夫弁護団長、中川創太弁護団事務局長、高田義之、今川正章、東翔の愛媛の弁護団諸氏に加えて、広島から定者吉人弁護士、また須藤昭男事務局長を始め19人の原告が着席しました。

中川俊一氏(四電側証人)に中川創太弁護士(原告側代理人)が反対尋問

 中川俊一氏は四電社員で、四電に入社後一貫して伊方原発の安全管理部門に関わり、現在は原子力本部伊方発電所品質保証部長という要職にある人物です。

 尋問は四電側の弁護士が証人に質問をする主尋問から始まりました。中川証人は学歴や四電内での職歴を述べた後に、確率論的なリスク評価にもとづいて伊方原発の安全管理の職務に従事していると自己紹介した上で、伊方原発の安全対策を具体的に証言しました。その際冒頭で、福島原発の事故で破綻済みの安全神話である「五重の障壁」論を滔々と語り始め、この証人の頭の中では福島の事故などまるで発生していないかのようでした。

 とはいえ証人は、福島原発の事故後の対策として地震や津波に備えて原子炉冷却のための設備の多重化や多様化を伊方原発でも進めてきたと述べ、併せて浸水防止対策を進めるなどして安全確保を図っていると強調して主尋問を終えました。

 原告側の中川創太弁護士からの反対尋問は、深層防護に関わる証人の認識の確認から始まりました。第1層から第5層までの対策がそれぞれ独立して機能することが前提の安全対策であることについて、中川弁護士は再三にわたって尋問を繰り返したところ、証人は渋々これを認めました。

 中川弁護士は、かつて国の原子力規制機関(元の原子力安全保安院)が炉心損傷などの重大事故の発生確率を数千万年に1回とか数億年に1回と表記し、事実上無事故であるかのように装っていた事実を示しつつ、実際には福島原発で3基の原発が炉心損傷事故を起こしていることから、確率論的リスク評価が既に破綻しているのではないかと追及しましたが、証人は明確な応答をしませんでした。
 
 また中川弁護士が、炉心損傷事故の発生確率と影響度の大小について尋問したところ、証人は発生確率が小さいと述べつつも影響度合いについては回答をしないため、繰り返し回答を求めました。そうした状況で裁判官が回答をするよう促しましたが、証人は影響度合いの大小については結局回答を拒み続けました。影響度が大きいことを認めると、それに伴って安全対策を施しているか否かに論点が移り、対策未実施が露見して四電が窮地に陥ることを回避したかったことによるもののようでした。

自然災害時の事故対応を尋問 暴露された安全確保の実態

 自然災害時の事故対応について、当直時は22名が従事しつつ早急に近隣の従業員を招集すると証人は述べましたが、中川弁護士が伊方原発に至る複数のルートを掲げてそれぞれについてトンネルが幾つあるのかを尋ねたところ、どのルートについてもトンネルの数さえ証人は知りませんでした。

 ということは、トンネル崩落事故の危険性や発生の際の対応策も全く講じていないこと、すなわち自然災害時には増員対策が満たされない恐れが充分にあることが暴露された訳です。なお、かつて夜間の宿直要員が無断外出を繰り返し、内部告発が行われるまでの数年間それが表面化しなかったことについても、尋問を通じて明らかにされました。
 こうした四電に原発の安全確保は期待できないとしか思えません。

薦田伸夫弁護士 とどめの反対尋問を展開

 続いて薦田伸夫弁護士が反対尋問に臨みました。証人自身が陳述書に記載している原子炉内の「高圧」について、どの程度かと尋ねましたが、答えられませんでした。また福島原発事故後に全原発で実施されたストレステストに関連して、その業務に従事したと書いてあるにもかかわらず、「クリフエッジ」という重要な語句を思い出せず、また伊方原発の当該数値(855ガル)も言えず、「知らない、わからない」を連発する証人に傍聴席から失笑が漏れていました。

 また、地震発生時の原子炉について、制御棒の挿入完了には2.5秒が必要だが、南海トラフや中央構造線など震源が近傍の場合はP波とS波の到達時刻に2.5秒未満の差しかないため、P波を感知して制御棒の挿入を開始しても完了する前にS波が到達して核分裂の制御・停止が不能ではないかとの質問に、証人は回答できませんでした。

四電側は再主尋問せず

 その後一旦休廷して15分後に再開。四電側の再主尋問の予定でしたが、四電側代理人は一言、「ありません」と尋問を放棄しました。通例なら反対尋問で崩れそうになった証言の立て直しを図るために再主尋問を行うものです。が、破綻の程度が酷すぎて立て直しは困難と判断したためか再主尋問をしませんでした。そのため原告側の反対尋問も行なわれず、裁判官からの若干の補充尋問(原子炉をとめる機能、多様化、非常用電源等について)があって、閉廷しました。 

路上で簡単な締め括りの会 

 閉廷後は、締め括りのため裁判所の隣接地でごく短時間の集会を行いました。当日参加の弁護団に一言ずつご発言を頂き(所用の一人を除いて)、須藤昭男事務局長の閉会の辞で散会しました。

弁護団の話に耳を傾けて

傍聴を終えての感想

A氏:主尋問は眠かったが、反対尋問は特に深層防護の追及が面白かった=答えざるを得ない所へ追い込んで、矛盾を明らかにさせていって、証人はしどろもどろに。身命を賭して事故対応に当たるべき保安員が、外出する事態の阿保らしさ。事故時の参集要員が通るべきトンネルの数さえ知らず、来ることになっていると平然と言うお粗末さ。

B氏:初参加だが、面白かった。科学論争的なこともあったが、論点はよく判った。安全問題への中川弁護士の切込みはとても良かった。傍聴席に四電関係者らしき人が多くて、負けないようにしなくてはと思った。

C氏:中川証人には唖然とした、反対尋問に余りに準備不足で知らなさ過ぎる。自分ならどんな質問があるかなど、四電弁護団から教わって準備するのに。

D氏:予習・復習ナシ、自分の陳述書の範囲の証言ばかりで周辺の知識もなくてビックリ。福島原発の安全評価について検討したかと聞かれて「他社のことだから詳しくは知らない」には驚いた。混乱して答えられない場面が多かった。

E氏:傍聴席は四電関係者が11+3は居て、いつもより多かった。彼が事故の時の責任者かと思うと唖然とした。あんな無能な者はいない、怖ろしいと思った。反応が鈍い、曖昧で知らないことが多過ぎる。職務に関連するのに、証言の準備もしていない。事故時にウロウロして大惨事にしてしまうタイプの人間。左遷して役職から外して欲しい、あんな人間を据えておくなど、原発をやる資格が四電に無いことを示している。

F氏:原告側の弁護団が凄い。それにつけても証人が情ない。元々無理があるにしても、今日も圧勝の感。発生頻度と影響度合いのやり取りは胡麻化したかったのに、失敗した姿か?証人が気の毒だった(前回にも感じたが、今日の証人には一層感じた)。

G氏:中川弁護士の追い込みが良かった。発生頻度の高低と影響度の大小にかかわるやりとりに、証人は答えに窮した。薦田弁護士のP波とS波(制御棒の挿入の2.5秒)も良かった、これにはまともな回答不能に陥っていた。

H氏:資料が判りにくかったけれど証人がまともに答えていないのが可笑しかった。証人がしどろもどろ、頼りない人で自分の立場を理解していないようで、重大な事故について真剣に検討しているようには見えなかった。

I氏:中川・薦田両先生の追及が鋭く、証人のシドロモドロが目立った。原告優位の流れの中で、反対尋問に耐え切れなかったか、証言直後の証人の姿は、「どうにもなりません、ガクッ」感が漂っていた。

J氏:原告弁護団の追及は鋭い。しかもパワーポイント利用などで傍聴者にも判り易い仕方での追及。気の毒に思えるほど、見事に恥をさらした中川俊一証人。当初は引き延ばし作戦かと思ったが、安全神話を広め続けた結果、自らもそれに囚われ、一方的に安全と宣伝することしか出来なくなったのではと感じた。中盤からは弁護士の質問の日本語の意味さえ分からなくなっての醜態を晒していた。

K氏:中川・薦田両弁護士の追及が的確。保安要員外出事案が内部告発まで3~4年も判らないとは、どういうことか。事故時の対応要員の参集などについて、トンネル事故の想定もないとは論外。こんな企業に原発運転の資格はない。

L氏:四電が福島事故から何も学んでいないことに驚いた。摩訶不思議な状況。今回も四電の証言はお粗末でした。

M氏:初参加だが、とても良かった。弁護団の安全神話の追及を通じて四電が本気で事故対策を講じようとしていないことがハッキリ判った。証人には、会社を傷つけてはいけないとの気持ちが強いことを感じた。トンネルが塞がる危険性があるなら、22人でなくもっと増員するなどと回答するべきなのにそれはなく、「安全、安全」は口先のみと痛感した。頼りなさから、この人で大丈夫かと不安を持った。

N氏:証人が可哀そうなくらいだった。自分ならあんな状態になったら窓から飛び降り自殺だ。ウナギ年生まれ(?)なのか、クネクネした証言を繰り返して、まともに答えていない。事故時の対応要員が22名しかいないことに驚いた。しかも愛媛県は災害時の道路不通を想定しているのに四電はそれさえ想定していないとは。多くの人に見てもらいたかった(知って欲しい)。

O氏:証言態度を見ていて、ついつい笑ってしまった。証人に誠意が感じられず、返答の仕方に四苦八苦。自分本位で何も考えていない、会社を守ることだけの意識のようだ。薦田弁護士の冷静さと比較すれば中川弁護士はややエキサイトし過ぎの印象を持った。

P氏:どんなことをしても、原発からの安全確保は出来ないことが判った。四電が安全にお金をかけていないこともよく判った。弁護団の追い詰め方が的確で、不謹慎だけどエンタメ的にも面白かった。証人が青菜に塩の状態になり、それが裁判官にしっかり伝わったと思いたい。12月の口頭弁論を楽しみにしています。

Q氏:四電の安全管理の計画と体制の杜撰さが浮かび上がって来た。エッ、この程度なのと驚いた。土木建築部門で安全管理の職務経験のある自分には考えられない状況。あれでは現場の人の命を守ることも出来ない。計画書等は膨大でも画餅に過ぎず、現場で使えない。先日の福島原発での汚染水処理作業での被ばく事故では作業手順書も無ければ管理体制もナシ、同じようなことは四電にもあるに違いない。放射能を扱うという緊張感が無さ過ぎる、現場で働く人の命がないがしろにされ、ましてや住民の安全など守ることは出来ないとしみじみ感じた。

R氏: 中川弁護士の質問の組み立てが鋭かった。それだけに余りにもお粗末な証言となった。自分の持ち場のデータは見ているのでしょうけど、周辺のこと、例えば事故時の避難は行政の責任とは言え、それなりの対応策が必要なはずだが全く無関心のようだ。

S氏:二人の弁護士さんがとても勉強していて…証人はハッキリしなかった。ショックだったのは、福島の事故を参考にしていないと言うこと。余りに酷いと思い、腹立たしくもあった。「5重の防護」と言うけれど、一つ一つをきちんと対応するのでなく、自分勝手な解釈で(より大きい被害などを無視し)、おざなりでしかないと感じた。事故時に22名でしか対応できず、招集をかけると言うけれど、命の危険を冒して来てくれるのか?居残った22名にも命の危険を伴う過酷な状況だ。仕事とはいえ不用意な発言の出来ない証人には気の毒だとは思ったが、安全の確保に程遠い状況と感じた。   以上