安全対策と避難計画に重大な欠陥、伊方原発はとめるしかない
12月12日、伊方原発運転差止訴訟の第39回口頭弁論が、松山地方裁判所31号法廷で行われました。 4月20日の第33回口頭弁論から始まった証人尋問もいよいよ今回が最後だということもあって、朝9時から大勢の原告・支援者が裁判所に詰めかけました。
36席の傍聴券をめぐって、原告被告双方の傍聴希望者112名が抽選の列に並びました。
今回も香川から尾崎ご兄弟が手製の大きなバルーンや横断幕、たくさんのパネルを携えて応援に来られ、原告を元気づけてくださいました。
薦田伸夫弁護団団長、中川創太弁護団事務局長、高田義之、今川正章、東翔の愛媛の弁護団諸氏と、東京から只野靖弁護士、広島から定者吉人弁護士、須藤昭男事務局長を始め18人の原告が原告席に座りました。
今回は原告側二人の証人尋問でした。強震動地震学の第一人者である野津厚さん(国立研究開発法人「海上・港湾・航空技術研究所」港湾空港技術研究所地震防災研究領域長)と、米ゼネラル・エレクトリック社原子力事業部に勤務していた技術者で、原子力コンサルタントの佐藤暁さんです。
午前9時55分開廷で、16時半過ぎまでの長時間にわたる裁判でしたが、原告、傍聴者の皆さま、窮屈な座席で、熱心に傍聴されていました。お疲れ様でした。
野津厚証人 利益相反のない立場での率直な証言
野津証人への主尋問は只野弁護士が担当、難しい内容でしたが事前に配布された資料「伊方発電所の基準地震動の問題点―南傾斜の問題を中心として―」に基づいた質問でしたので、傍聴者は何とかついていくことができました。
野津証人は冒頭で次のようにご自分の立場を表明しました。すなわち、日本の地震研究者の多くが電力会社や電力会社と契約関係にあるゼネコンなどに席を置いていて、原発にとって不利益な意見の表明は控えてしまう傾向があること、また大学に席を置く研究者も電力会社は教え子である学生の有力な就職先であるため同じように率直な意見表明を差し控えがちである。しかし、自分は電力会社との利益相反のない立場であり、原発にとって不利なことでも有利なことでも信じるところを率直に発言できる立場にある数少ない研究者であるとハッキリと表明しました。
その上で、野津証人は、原発の設計の際に想定する最大の揺れである基準地震動について、四電の見積もりが極端に小さすぎると指摘しました。その一因として中央構造線断層帯の傾斜角について、「北傾斜」については30度まで考慮しているにもかかわらず、原発にとって厳しくなる「南傾斜」は80度までしか考慮していない点を厳しく指摘しました。
また、四電が設定した伊方原発の基準地震動は650ガルだが、野津証人によれば650ガルは異様に低い数値であり、その原因について解明したいと考えたが四電が計算方式や過程を非公開としているため解明できないとのこと。併せて、「南傾斜」を60度と想定すれば、野津証人の試算結果では約2倍の1304ガルになることを示しました(その計算方式は論文で公開済み)。
その上で、「南傾斜」の断層面で地震が起きれば、より原発に近いところで地震が発生することになり、四電の想定した基準地震動をはるかに超える地震動が発生する可能性を指摘。起こりうる最大の地震動を想定することの大切さを訴え、「地震の被害は重大であり、原発の設計においてはあらゆる地震を考える必要がある」と力説しました。
主尋問を終えて被告側の反対尋問に移りました。野津証人については、10月11日に同じ差止訴訟の広島地裁で、四国電力は反対尋問をしたばかりでしたが、証人の終始、丁寧で誠実な発言に対し、攻めあぐねている様子が伺えました。重箱の隅をつつくような質問が続き、何を引き出したいがための質問なのか、傍聴者にとっては分かりづらい反対尋問でした。
6割以上の専門家が野津証人の意見に賛同するはずだと広島では証言しているが、具体的な名前を挙げられるかとの四電側の質問には、利益相反のない、例えば外国の専門家集団なら賛同するに違いないと答えました。また、四国電力の審査資料はひととおり見たが、それだけでは説明できない、わからないところがある。結果がおかしいが原因が分からないと、四電の審査資料の不備を指摘しました。
佐藤暁証人 安全対策に重大な欠陥があると指摘
佐藤証人への主尋問は薦田弁護士が担当し、資料として配られた佐藤証人の「意見書」(甲第157号証、2014年6月20日に裁判所に提出)に基づいての尋問となりました。
佐藤証人は、5層からなる深層防護の重要性を語りました。第1層は故障を起こさせない、第2層は故障に対処する、第3層は原子炉過酷事故を起こさせない、第4層は原子炉過酷事故に至ってしまったら影響を低くおさえる、第5層は放射能の環境への広がりと被害をおさえるなど。
福島原発の事故以降は(伊方原発でも)ある程度の改善はみられるが、事故対策としても恒設設備でなく可搬式電源車など人手を前提にした対策が中心の不十分さを指摘し、本来は自然の物理現象による作動などの装置の開発・設置が望ましいと証言しました。 日本の場合、地震、停電、余震、津波など次々と起こると、人的対応では危険を伴う。現場の人間が恐怖を感じながら命がけの対応を強いることの残酷さを強調しました。
住民避難計画は、東京電力福島第一原発事故後に整備されつつあるが、まだまだ不十分で脆弱だとも指摘しました。 アメリカのニューヨーク州ロングアイランド島に建設されたショアハム原発は、安全な避難が困難と住民が訴え、一度も運転されないまま廃炉になったことを紹介。そこでの避難路と原発の近接距離は8キロだったが、伊方原発と避難路との距離はわずかしかないと訴えました。その上で、証人自身が佐田岬半島を訪問して感得した地形的地理的な避難の困難性について「道路も細いし、相当険しい。半島の幅も狭い。大雨や台風が来たらどうなるかと恐怖を感じた」と力説しました。 船を使って避難しようとしても、地震が発生して津波が襲い、台風など悪天候では船による避難は困難だとして、伊方原発の地形的、地質的立地条件については、明らかに重大な弱点があると指摘しました。 一般的な印象では99.9%は安心感を与えるが、原子力発電の安全性については、99.9%でも不十分だ、原子力では0.1%のリスクの重大性、安全性も確保しなければならないと証言しました。
反対尋問では、被告側は、佐藤証人は加圧水型原子炉については設計していないのかとか、「意見書」提出後に、四国電力が施した安全対策について把握しているかといった類の質問から始まりましたが、佐藤証人は動じることなく、誠実な対応を続けました。
被告側代理人は、現在もアメリカやフランスでも既存の原子炉では、5層の深層防護が適用されないままで稼働を続けているものがあるとの佐藤証人からの証言を引き出しましたが、そのことを根拠に、だから伊方原発を稼働させてもいいという四電側の開き直りが垣間見えて、住民や県民をあまりにも蔑ろにした姿勢の腹立たしい発言でした。
菊池浩也裁判長は証人尋問を終えて、次回の2024年6月18日の第40回口頭弁論で結審すると表明し、双方に5月24日までに最終準備書面を提出するよう求めました。
弁護団を囲んで「しめくくり」
閉廷後に、5人の弁護団を囲んで、裁判所の隣接地でごく短時間の締めくくりを行いました。
薦田弁護団長からの「野津厚さんという強震動学の超専門家、佐藤暁さんという原子力についてたぶん四国電力のどなたよりも一番詳しい方の尋問でした。専門的だったので、わかりにくかったかもわかりませんけれども、こちらの証人申請した目的は達することができたと思います」との発言を皮切りに、弁護団各位から裁判を振り返って以下のような発言がありました。
*原発の安全性を考える場合、一番厳しいものを想定しなくてはダメだ、当然やらなくてはいけない話だが、四電はそもそも何もやっていない、そのことが裁判所に分かれば、勝ち目が出てくるのではないか。
*野津先生は、公的な立場にありながら住民側に立ってくれて堂々と証言されるという希有な方であり、よく証言いただけたなと思う。
*今日で尋問は終わりましたが、優れた証人たち、誠実な証人たちが結集して、全国から優れた弁護団が結成できて、この伊方裁判は、やるべきことはすべてやり尽くした感がある。ご苦労様でした。
*心を引き締めて最後までみんな力を合わせてやっていきましょう
最後に、伊方原発をとめる会の須藤昭男事務局長が、12年前の2011年12月8日の提訴を振り返り、「私たちは必ず勝つ!勝利の日を迎えましょう」と力を込めて締めくくりの挨拶をしました。
◇1月14日(日)の裁判報告集会にご参加を!◇
2024年1月14日(日)午後1時半から「伊方原発運転差止裁判報告集会」を松山市のコムズ5階大会議室で行います。弁護団から報告を受け、疑問点があれば直接弁護団に聞くことが可能です。ぜひご参集ください。
傍聴者の感想あれこれ
野津厚さんの証言についての感想:
*「自分は利益相反がなく公平な立場にいる数少ない強震動研究者だ」と宣言して証言を開始されて、ユニークだと思った。3人の裁判官こそ野津さんのような立場で判断をしてほしい。太平洋プレートがフィリッピンプレートに潜り込むことで起きる南海大地震は、周期的に起きてきた。プレートが潜り込む場所が元に戻ろうとして跳ね上がり、海底なら大地震に大津波が襲う。四国はプレートが北西方向に動く影響で、現在も強い力が働いている。それは巨大なエネルギーが地下にたまっているということで、南海大地震がいつ起こってもおかしくない状態だ。伊方原発の前の中央構造線についても調査が不十分。原発の立っている岩盤が固いといっても重大な被害は免れないと確信持って証言をされた。
*·活断層について四電の過小評価を知って驚いた。証言はしっかりしていた。アスペリティという用語を聞いて調べたら、壊しながら滑ることのようで、波形が遅れて来るそうで、四電はそれを考慮していないとのことで恐ろしく思った。野津証人は港湾整備の業務に従事しているが、そこでは過去の地震実績のデータで対応可だが、原発にはより巨大な規模の地震の想定をと強調。その通りと思った。強振動予測の有効性と併せて限界性を述べる謙虚な姿勢に好感をもった。四電は逆に故意に過小評価をしたり、利益相反の学者を利用していてフェアーでないと思った。
*利害関係のない公平な眼で見ていて、証言もよく判った。原発の危険性についても、学問的に冷静に判断してくれて嬉しかった
*専門的なアルファベットの略語が多く、午前中と比べると分かりにくいところがあった。しかし、原発の危険性はハッキリ判った。
*良く判った。反対尋問は、何じゃこれと感じた。四電は肝心なところはやっていないことがよく判った。
*専門的で難しいと思いつつ、反対尋問に的確に反論していて、とても気持ちが良かった。このため「午前中だけ原告席」の予定を変更し、午後は傍聴席に座らせてもらった(事務局の方々にお世話になりました)。
*面白かった。難しいところもあったけど、闘いの神髄に触れた証言だった。原発問題では、人権を守り、暮らしを守る立場に立つべきだ。証言が理論的で面白かった。
*(午前のみの参加)研究者としての使命感、責任感そして誇りを感じた。反対尋問に動じることなく対処されていて立派と思った。
*手応えを感じた。裁判官に伝わって欲しいと思った。
*港湾は過去の地震データで対応可だが、原発では放射能と言う別の被害が起こるので港湾とは抜本的に違うという証言が一番得心した。
*利益相反がないとの表明に、良いなあと思ったし、印象的だった。
佐藤暁さんの証言についての感想:
*5層の段階で原発事故が進み、4、5層で炉心溶融と周辺住民に多大な被害が及ぶということを説明された。福島第一原発ではまさにそこまでいったのに未だに原発を動かしている。今までに30回も世界中で炉心の損傷が起きていることも知り、一刻も猶予はできない。ただちに廃炉の思いが募った。勝利しかない!頑張ろう!
*【シートベルトのない飛行機(=原発)にお客さん(=住民)を乗せてはいけない】原子力コンサルタントの佐藤暁氏。1故障を起こさせない、2故障を検知する、3事故を起こさせない、4事故に至ってしまったら影響を低くおさえる、5放射能の環境への広がりをおさえ、命を守る。どの段階にも甘さがあってはいけないという。事故が起きないという前提で話はできないよね。原発がパイロットなら、住人は乗客。避難計画が有効でない原発はシートベルトの付いていない飛行機と同じ許可できないのは自明の理であるというお話が、納得でした。伊方原発以西の住民の避難は危険すぎるし、無視されてるいるし、松山の私たちも放射能の流れの真っ只中で右往左往するしかないよね、事故が起きれば。フクシマの経験を無駄にしてはいけない。
*深層防護が元来は軍事用語と知らされて驚いた。配管が壊れて全電源喪失へ、電源復旧でスンナリ収まるか疑問、ナイトメアシナリオの危険。原発事業に携わりながら反原発で頑張っていて感謝の念。新規制基準は世界一厳しいと言うけれど、アメリカの基準で見れば許可も出ないと言う証言。とは言えアメリカの基準も動かすためのものなので、反対尋問ではそこを突いて来て少し押し戻されたかなと感じた。ノーリスクではなく、リスクを抱えてアメリカも伊方も運転しているのだと四電は言いたかったのだろう。
*避難の難しさは判り易かった。実際に車を運転して走った体験が活かされていた証言だった(聞きたかったけど所用があって途中で退席させてもらった)。
*冒頭の加害者意識の表明に感銘を受けた。四電の安全対策の不備の指摘はよく判ったが、こうすれば安全だと言っているように聞こえてならなかった(その点不満だった)。深層防護とは言っても、アメリカでも実際は運転しているし・・・技術的なところがあって分かりにくい所もあった。
*常識的なようで神髄に触れていて納得した。
*(午後のみ参加)貰った資料を共同通信記者に渡したため、手元に資料ナシで聞いたが、「原子力コンサルタント」の肩書に驚いた。加害者意識の自認には小さい驚嘆を覚えた。動じない人、ツワモノ、真っ当な言い分と感じながら証言を聞いた(帰宅後にネットで調べ国会でも証言した方だと知った)。
*よく判りました。避難の関係は、その通りだ。
*「科学」の連載も読んでいたので、印象としては、このまま普通に評価したら勝訴だがそこのところが心配。
*佐田岬半島に証人自身が行った経験からショーハム原発と違って幅が狭いこと、道は頂上に一本しかないことから避難の困難性を実感したとの証言で、改めてそれらを痛感した。
*四電は万が一のことを考えていない、そこがポイントだと感じた。
*意見書について:頁にローマ数字がふってある「序文」が分かりやすい。特に略語、主な熟語の解説が非常に便利。また全体の要約もある。素人にも分かりやすくと心がけての意見書だと好感をもった。伊方原発と似た規模のアメリカのサリー原発の過酷事故進展シナリオを伊方原発のものと比較検討することで伊方のシナリオの杜撰さが浮き彫りになっている。最終盤の15時半ごろ傍聴席に入廷したが、田代代理人が時間いっぱい、アレコレ尋問する姿を初めて拝見。意見書が書かれた2016年以降に伊方原発で設置された「電源ポンプ車」の記載がないことを指摘するのを聞いて、切り込めるレベルがその程度かと思った。また、田代代理人の「(原発運転への体制など)アメリカは日本より優れていると思うか」との質問への佐藤証人の回答を聞いて、アメリカは、全電源喪失SBOは起こるものと想定しているのに対して、日本は福島事故後に追いついてきたとはいえまだ甘い想定であることがよくわかった。田代代理人の反対尋問が奇しくも原告側に利する証言を引き出してくれて痛快だった。
全体的な感想:
*初めての参加で、驚くことばかりだった。詳しくやり取りを聞いたのは初めて。
*今日は専門的で難しかった。
*弁護団は(表現は適切でないかも知れないが)、最終まで首尾よく仕舞いをつけ、やれることは全てやり切って完全燃焼ではないか、大奮闘だったと思う。
*文系の自分には、今日は理系でイマイチよく理解出来ないが、四電が安全尊重していないことはよく伝わって来た。二証人とも自分の理解がついていけていない。午前の尋問の地質の図を見ても不明。午後の尋問については、意見書を読み込んだら判るかなぁの感じ。冒頭の略語表が役立ちそうなので、1~2週間かけて読み込みたい。
*長期間にわたる松山地裁での裁判を通じて、小まめに声をかけて下さって裁判と市民運動とがつながり、市民と原発とをつなげる効果も生んでいると思う。長い期間を重ねたからの効果だと感謝しています。
*疲れていて傍聴席で少しウトウトしたが、証人の見地が明快で、さすがだと思った。四電の反対尋問が何をしようとしているか分からなかった。
*深層防護とは、原発運転のためのアリバイ工作的な印象を受けた。前回の口頭弁論でもそれを感じたが、規制委の了解を得て動かすためにつくったように思った。
*お二人ともとても分かり易かった。深層防護について、初めて詳しく知ることが出来た。佐藤さんの僅かな東北訛りに気づいて、問い合わせると東北(秋田)出身とのことで、個人的な親しみも感じた。 証人調べの最後と言うことで、何はともあれここまでやって来れたこと、2011年12月8日の提訴の日を思い起こしてとても感慨深い。
*初めて参加しました。裁判は当然のことながら原発の危険性と、権力による厚顔無恥さを露わにするやり取りでしたが、裁判傍聴の人達の熱さも滲み出る様子もうかがい知ることができて、私なりに有意義でした。欲を云えば、若い人達も参加してほしかった。近頃思う事の一つに、あの日大の問題に何故学生達が立ち上がらないのかと、其処まで従順になってしまったのかと。立ち上げる術を継承させてこなかった自分たちに忸怩たる思いがあります。