3・13記念講演会              「原発事故から12年目 過去といま、未来を考える」講師:吉田千亜さん   

聴き入る聴衆

 伊方原発をとめる会は3月13日、午後1時半~3時半、松山市三番町のえひめ共済会館にて「3・13記念講演会」を開催しました。フリージャーナリストの吉田千亜さんに「原発事故から12年目 過去といま、未来を考える」と題してお話いただきました。会場とズーム参加を合わせて80余名の参加がありました。なお、今回は直前の会場変更、ZOOMで参加の方にはパワーポイント画面が見づらく聞き取りにくい場面があったことなど、主催者側の不手際があったことをお詫びいたします。

何列かは椅子のみで聴いていただきました

取材活動の原点は「気にし過ぎですよ」への反発から

 吉田千亜さんは、福島原発事故を埼玉県川越市で二人の子どもの母親として経験し、給食センタ―に食材の放射能汚染について尋ねると「お母さん、気にしすぎですよ」と言われたことで「なにくそ!」と発奮。子どもに1年間、弁当を持たせ、埼玉県で避難交流会を立ち上げ、福島県内外の放射線量の測定を継続的に行っていると自己紹介されました。

 それらの活動を通して、『ルポ 母子避難 消されゆく原発事故被害者』、『その後の福島』、そして原発直後の双葉郡の消防士たちを取材した話題作の『孤塁』を次々と出版されました。

事故後の福島の不都合な真実が明らかに

 マスコミが報道しようとしない、今まさに福島で起っている現実が次々とスライドに映し出され、伊方原発を抱える愛媛県民として他人事ではないと考えさせられました。

 吉田さんの講演スライドをご本人の了承を得て以下に10枚、紹介いたします。

 これらのスライドの最後に吉田さんは「今後、抗っていかなくてはと思っていること」として、特に以下の点を強調されました。

「原発はなくさなくてはならない」

 放射性廃棄物は10万年保管しなくてはいけないと言われているが、原発が使えるのは、せいぜい3世代(稼働期間は40~60年)、たかだか3世代のために、のちの3300世代が、それを管理し続けなくてはならない、とんでもないことをしてしまっている。

「核武装をさせない」

 ロシア軍によるウクライナの原発への攻撃という事態が実際に起きた。核武装をしたいという人たちもいるが、自国を破滅させる覚悟を持っているのか。「攻撃して下さい」というものを日本はたくさん持っている。

「原発事故被害を決して矮小化させない」

 この先、原発事故が起きたとき、国などは福島を教訓として被害を矮小化し、復興ばかりをアピールするだろう。今までは「原発は安全です」だったけれど、今やっていることは「原発事故は安全です」そのもの。この先、原発事故が起きたとき、みんな逃げられない状況にさせられるだろう。例えば、自主避難の人たちへ住宅供与をしない、健康被害は徹底的に否定する。また、過剰診断、スクリーニング効果だといって小児甲状腺がんも、原発事故との因果関係を認めないだろう。

 吉田さんは以上のように述べて、「今後も『原発事故避難者住まいの権利裁判』や『311⼦ども甲状腺がん裁判』などの支援を続けていく」と、静かにしかし断固とした決意を述べて講演を締めくくりました。

 会場には吉田さんの著書や連載中の雑誌「世界」が並べられましたが、いずれも完売の盛況ぶりでした。また、会場後ろには今回も松山市在住の杉山洋さんによる「請戸小 2019 遺したものは」等の油絵が展示されました。

 閉会にあたって、松浦秀人事務局次長は愛媛の原爆被害者の会の事務局長でもある立場から、「核の恐ろしさを訴え続けて、原発も核兵器もない社会を作るために力を合わせていきたい」と挨拶しました。

 講演会後に、福島避難者裁判原告団代表の渡部寛志さんが最高裁に「公正な判決を求める署名」への協力を呼びかけました。なお、渡部さんはとめる会の共同代表でもあります。

講演を聞いての感想をいくつか

子育て中のチェルノブイリ原発事故を思い出した(Aさん)

 原発事故に遭遇した吉田さんが子供たちの健康に不安が募ったという話に、自分の子育て時代にチェルノブイリ原発事故がありショックを受けたことを思い出しました。2度とそういう不安を生み出す世の中にしてはいけない、という気持ちと、一方でそれが発端になって一人の女性が社会に自分を発信する存在になった、ということの素晴らしさも感じました。

事故で矢面に立つ元自治体職員として(Bさん)

 子育てしながらの、圧倒的な取材力に驚かされます。自治体職員の多くは線量計を持たされていませんでしたから、データも残らないままに現地に留まり大量に被ばくしています。彼らの被ばくを認めたら住民の被ばくを認めなければならなくなるため、小児甲状腺がん患者と同じ理論で、「安全な原発事故」というスートーリーの一環で埋もれさせられています。帰還を強制する行政、補償を打ち切る行政、これらの施策を決めているのは政府自民党、国会議員なんですが、矢面に立たされるのは地元の自治体職員です。このやりきれなさ、、、この怒りを反原発にぶつけます。

具体的なアドバイス、さっそく実践します(Cさん)

 話が分かりやすいでした。ある日突然、事故は起こるもの。だから、備えあれば憂いなしだと、車にトイレシートを常備するとかガソリンは半分になったら満タンにしておく等の具体的なアドバイスがもらえてよかったです。

熱意が伝わり、感動しました (Dさん ZOOM視聴)

 講師の熱い心に打たれて感動しました。この人だから取材された側も心を許して話し出すのだと思います。ニュースに出てくるような無味乾燥な数字ではわからない、個をもった人間像が浮かび上がるし、女性目線でものを見ている姿勢も聞いていて気持ちよかったです。

伊方原発周辺自治体住民必見の講演会だった(Eさん)

 『希望の言葉は被害を隠す』復興という名に隠された隠蔽と、それを知りながらもそこで生きていかないといけない住民。放射性物質の実害を訴える人を福島の復興を妨げる、として、「風評加害者」と呼び始めた環境省。取材を通してみえてきた、除染される30km圏内と除染を打ち切られる圏外、など。伊方原発周辺自治体住民必見の講演会であった。原発「事故」などという生ぬるいものではない。これは確信犯的な事件なのだ。