伊方3号機を廃炉に

9回目の3・11にあたって

草薙順一事務局長

1 二度の広島高裁決定

2020年1月17日、広島高裁は伊方3号機の運転差し止めの仮処分決定をしました。決定は、「原発敷地の2キロの範囲において、活断層がある可能性が否定できないのに調査をしていない」と述べました。原子力規制基準では、「原発敷地2キロの範囲内には、活断層のないこと」と規定されているのに、国の地震調査研究推進本部の調査評価(2017年12月中央構造線断層帯長期評価第2版)では、「活断層の存在する可能性があり、今後の詳細な調査が求められる」との指摘を根拠にしています。なお、この調査評価は、伊方3号機の再稼働が許可された後に出されたものです。従って、最新の知見に基づいています。

更に阿蘇の噴火についても、原子力規制基準の火山ガイドに従えば、「最大規模の噴火、すなわち20~30立法キロメートルを想定すべきであるのに、四国電力の想定は、その3~5分の1で、過少評価である」と述べました。

「以上により、原子力規制委員会の判断は、過誤・欠落があり不合理である」とのべました。

この決定に対して、四国電力は電源の一時喪失などのトラブルで、異議申立てを見送っていましたが、同年2月19日に異議申し立てをしました。今後は、広島高裁で異議審として、別な裁判官が判断することになります。

2017年12月13日には広島高裁の仮処分で、火山ガイドに従えば、火山の影響を考慮すべきであるとして、立地不適との判断をして、伊方3号機の運転差し止めを決定しています。従って、今回で2度目の高裁決定は、伊方原発の稼働が危険であることの警鐘であると思います。

2 想定外のヒューマン・エラー(人為的ミス)

伊方原発3号機はトラブル続きです。2020年1月に入ってから12日には、原子炉の制御棒を間違って引き抜いたり、1月20日には燃料棒がラックに乗り上げ、1月25日には一時外部電源が喪失して、「使用済み燃料ブール」の冷却が不能となり、水温が1.1度上昇し、回復に43分かかりました。これらの人為的ミスについて、現在も原因究明中ですが、全くの想定外でした。

1979年の米国スリーマイル島や、1986年のチェルノブイリの原発事故の時、これらの事故は外国の技術者で、日本の技術者は優秀で、こんな事故はあり得ないといわれ信じていました。従って人為的ミスについて、全く問題にはしていませんでした。私は「伊方原発をとめる会」の事務局長として、前後3回伊方原発を稼働させないように、原子力規制庁に要請に行きました。最後は伊方原発3号機の再稼働許可の異議申立てによる意見陳述でした。私を含めて5名の者が約4時間述べたことは、(1)原発は人類と共存できないこと。(2)コアキャッチャー(事故の折、溶融燃料の受け皿)などなく、規制基準があまりにも甘く、稼働推進基準になっていること。(3)伊方原発3号機の基準地震動が650ガルで過少であること。すなわち、中央構造線活断層の近くであり、南海トラフの震源域の真上であり、最近のビルでも5、000ガルに耐える建造物である旨述べたものでした。人為的ミスは誰も脳裏にありませんでした。審査書案にも人為的ミスの記述はありません。今回のトラブルは、技術者優秀安全神話の崩壊です。

3 伊方3号機を維持しなければならない理由はない。

経済性の面からも安全性の面からも伊方原発は廃炉にすべきです。四国電力の有価証券報告書によれば、経済性では、発電単価が高いのです。原子力発電費や、稼働率などから伊方3号機の発電単価は甘くみても12円/kwhで、火力発電単価の5円/kwhです。そして、原発の発電電力量を上回る余剰電力をエリア外に送電しています。

安全性の懸念は、広島高裁が指摘した活断層や火山の問題だけでなく、熟練した作業員の減少があります。原発3基体制の時代には、年間190日以上定期点検が行われていましたが、3号機のみでは、13カ月に、熟練作業員の仕事は3~4カ月となります。そうなると熟練した作業員が複数の原発を持つ事業所に移動することになり、作業員の確保が困難になり、安全性を損なうことにもつながりかねないのです(この項は、2020年3月1日発行NPO法人原子力資料情報室通信549号参照)。

4 伊方原発3号機を再稼働させている理由

2011年3月11日に発生した福島第1原発事故から満9年が経過しましたが、事故の収束の目途はたっていません。私は避難区域となった浪江町や飯館村に行ったことがありますが、田・畑は荒れ野です。使用済み核燃料の保管場所もありません。

他方で原発を再稼働しているのはなぜなのか。第1にお金です。私は伊方町が原発再稼働に同意しないように要請に行ったことがあります。面会した副町長さんは、伊方町は財政の4割を原発に頼っています。その点をご理解下さいと言われたことがあります。原発抜きでは町財政が成り立たない現実があります。第2は、四国電力が廃炉決断しないことです。営利目的の企業が伊方3号機の稼働は重荷です。発電単価が高いだけでなく、テロ対策の「特定重大事故等対処施設」に金1、900億円も投入しなければなりません。しかし、廃炉の決断ができないのは、国との関係です。四国電力単独では、廃炉決定ができない状況があります。使用済み核燃料の処理ができません。10万年間の保管は一企業では不可能です。保管には場所が必要で、費用が掛かります。国とのかかわりが免れないのです。第3は、政治の問題解決の先送りです。2018年提出の野党4党による「原発ゼロ基本法案」は、審議されないまま今日に至っています。政治は見て見ぬふりです。

第5 原発は廃炉しかない

原発の将来はありません。廃炉しか選択肢はないのです。原発を推進している理由はすべて虚偽にみちています。安価・安全・クリーンではありません。政治が原発推進の国策が間違っていたことを認め、廃炉後の支援策を打ち出すべきなのです。伊方町など原発立地の地方公共団体に助成金や補助金を出し、廃炉に伴う費用を負担し、使用済み核燃料の解決に本気で取り組まなければなりません。核のゴミを、現在のところ受け入れる自治体はありません。拒否条例を作っている自治体もあります。負の清算には、とてつもない努力とお金が必要なのです。

(2020年3月11日記)