裁判官の良心発揮のためにも住民の声と事実を

150322idokenniti国内で初めて原発の運転差し止め判決を言い渡した元裁判長・井戸謙一さんの講演はたいへん重みのあるものでした。講演は3月22日(日)に松山市のコムズで行われ約200名の参加がありました。井戸さんがこの日用意した資料は、パワーポイント85枚に及び、健康・医療面のほか、地震動問題などの技術面から、また経済面からも語られました。
医療・健康の面で
衝撃だったのは、H23.5月8日衆議院震災復興特別委員会で参考人に立った、南相馬市立総合病院:副院長 及川友好(脳神経外科)医師の発言記録でした。それは、 『私自身は脳神経科医でありますので、脳卒中の発症率をいま東京大学の国際衛生学教室と一緒になって今データを集めているところなんですが、これはまだ暫定的なデータで確定的なものではないんですが、ただし恐ろしいデータが出ています。 』 『我々の地域での脳卒中発症率が65歳以上で約1.4倍。 それどころか35歳から64歳の壮年層で3.4倍にまで上がっています。 非常に恐ろしいデータが今上がってきていますね。』との発言記録です。井戸さんは、この資料に「既に健康被害は始まっているのではないか?」との表題をつけていました。
技術面では
「耐震設計のずさんさ」と題した資料がありました。「① 全国の原発で基準地震動越えが2005年から5回、② 日本で計測された最大の地震動は4022ガル(岩手宮城内陸地震 2008.6.14 M7.2)(但し、軟弱地盤)、③ 原発敷地(岩盤)で計測された最大地震動は1699ガル(中越沖地震 2007.7.16 M6.8)、④ マグニチュード6.1の地震で1000ガルの揺れが観測された例がある(2004年留萌支庁南部地震)(はぎとり波に換算しても600ガル)、⑤ 推定では、34000ガルの例あり(長野県西部地震 M6.8 1984年)、⑥ 過去のデータは極めて限られている。それでもこれだけの例がある。」-との事実を示しました。
経済面では
貿易赤字の原因を原発再稼働ができないことに押しつける議論について、「主たる原因は、円安と生産施設の海外移転で、円安になっても輸出が伸びないことである」と指摘しました。
裁判官を退職した後に、福島原発事故の被害者支援のために、また、原発の運転差止め裁判の支援に力を注いでいる様子も聞くことができました。
講演後の質疑の中で
裁判官には実際問題として、いわゆる出世にとらわれる部分が見られる一方、自分の考えで仕事が出来ることに魅力を感じて職に就いた人も少な くなく、個々の裁判官の中にもそれら両面があるということも見ながら、良質な部分を引き出すためにも世論の支持が重要であること。また、福島の原発事故で直面した人々の困難の事実をしっかり伝えることが重要だと語りました。また、「技術面から医療さらには倫理面にまでいたる広範な知識をふまえての判決をおこなうために、どのような学びの工夫をされたのか」、「裁判官がそうした力をつける環境にあるのか」との質問もありました。比較的オーソドックスなやりかただったが、物理に詳しい裁判官もいた旨語られました。また、近年の事例では、専門家を招致して裁判所の側から質問し理解を深めるという方法をとった裁判長の存在も紹介されました。しかし、なんといっても裁判当事者の提示する資料が、分りやすく示されていることが根本であると語られました。