熱気にあふれた第6次訴訟のキックオフ集会

伊方原発3号機の運転差止訴訟

熱心に聞き入る聴衆

 7月18日、松山市コミュニティーセンターにおいて、伊方原発の運転差止訴訟の第6次提訴に向けたキックオフ集会が開かれました。うたごえ協議会有志によるオープニングで始まり、美しいハーモニーを聞かせていただいた後、とめる会の須藤昭男事務局長が開会の挨拶。

 その後、司会の奥田恭子さんから記念講演の講師である市川守弘弁護士のプロフィールが紹介され、市川弁護士が登壇。「こうして勝った泊原発訴訟ー泊原発運転差止判決を受けて」と題する講演が行われました。

 市川弁護士は、5月31日の札幌地裁による泊原発の運転差止の判決を得た弁護団長であり、その判決を中心にした講演でしたが、後半部では再エネ事業の問題点にも触れるなど広い視野からの講演でした(講演の要旨は本文あとを参照)。講演終了後には、会場からの質問に一つ一つ丁寧に答えて頂きました。

市川守弘弁護士 泊原発訴訟から再エネ問題まで幅広く語っていただきました

 続いて中川創太伊方訴訟弁護団事務局長が登壇し、伊方訴訟の現状を報告。伊方原発差止訴訟が早11年目だが、4月に着任した今の裁判官たちに判決を書いてもらいたいと考えている。そのためには今後しっかりと主張・立証をしていくが、とめる会のみなさんには、第6次訴訟を起こすとともに、口頭弁論期日に大勢で裁判所に詰めかけて欲しい。伊方原発をとめたいと思っている住民がこんなにたくさんいるんだと、裁判所の2階、3階に詰めかけてほしいと訴えました。

次回の口頭弁論は原告・支援者で裁判所を埋め尽くしてほしいと中川創太弁護士

 次いで松浦秀人事務局次長が、原発を巡る近時の幾つかの判決に触れながら第6次原告募集の意義を語りました。その後に、原告に応募予定の塩川まゆみさんと田渕紀子さんから、それぞれ想いのこもった決意表明をいただき、越智勇二事務局次長の閉会の挨拶で閉会となりました。講師の市川先生の飛行機便の事情から午後2時半という変則的な開会時刻で午後5時の閉会という短時間の集会でしたが、熱気のこもった印象深い集会となりました。

第6次提訴の原告に応募予定の塩川まゆみさん(右)、田渕紀子さん(左)による決意表明

市川先生の講演の要旨

1  北海道電力の泊原発運転差止訴訟は、北海道内外に支援者約3600人。道内のさまざまな会や69団体、道内のほとんどの脱原発の人々を巻き込んで取り組んで来た。

2  北電は2013年に規制委に泊原発の設置変更許可申請を出したが、書類に不備があって未だ申請中。一般に申請書類に不備があれば申請は受け付けないが、原発については受け付けて不備を教えてくれる。そもそもこれがおかしい。

3   裁判の主な争点は4点―敷地内断層、地震・津波、火山の安全性、防災計画の適否―

・断層については規制委が活動性を否定できないとし、断層の存在を前提に地震に対する安全性を検討するよう北電に指示。裁判で北電は断層の存在を否定した。北電は、活動性を否定する書面を提出すると主張したが、裁判所はこれを待たず結審した。

・北海道には火山がたくさんある。火山の危険性について北電は反論していない。

・防災計画の適否について北電の反論はない。『北海道及び市町村の原子力災害避難防災計画』では、倒壊家屋数や寸断道路、崩壊橋梁場所などの調査は一切ない。原発災害の避難はまず「屋内退避」だが、倒壊家屋なら最初から避難はできない。

・津波についても、北電のいう最高水位の数値が次々と変わって、結局安全性の主張ができていない。判決後、ついに北電は防潮堤を壊し始めた。

4  判決の内容

 訴訟は8年半過ぎているのに北電は、規制委の審査を待つとして、原子炉の安全性について主張立証を終えていない。規制委の適合性審査では地震津波の安全性の審査が終わっておらず、被告の主張立証はいつまでにできるかも見通せないので、待たずに判決した。裁判所は津波の危険性に着目して(その他の論点への判断を保留したまま)運転停止を命じる判決をした。

5 泊原発差止判決の勝因

・5つの争点について住民側の主張・立証を終えた

・原発の本来的潜在的な危険性を訴え続けた

・北電が規制委の審査を優先し、訴訟で主張しなかった、など

6 泊判決の影響

 泊判決は、規制委による設置変更許可前の原発についての判決で、全国の原発訴訟では、規制委の適合性審査があるまで判決をしないという事例があり、「塩漬け訴訟」という。

 こうした「塩漬け」は、裁判所が行政府の判断を優先すること、科学では素人の裁判官が専門家の規制委を優位にみる傾向があり、科学判断に入らないためだが、泊判決はこうした司法の動向に大きなくさびを打ち込んだ。

7  泊原発訴訟―今後の課題

・30キロ圏内の住民の危険を認めて運転差止としたが、30キロ圏外は認めなかった。また、過酷事故が起きた場合、圏外も被害があるのに、避難計画の対象にしていないこと。ただし、長期間運転停止中の原発事故の危険性がどの程度に及ぶのかの定説はない。

・使用済み核燃料をどこに撤去するか、特定されていないとして判決は認めなかった。

・廃炉の要求をしたが、認められていない。

・カラの原子炉の危険性とは何か。これについてはだれも書いていない。

8 地球温暖化防止のために原発が必要、という議論があるが、そもそも「気候変動に関する国際連合枠組条約前文では「温暖化することとなり、自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼす恐れがあることを憂慮し・・」という目的が記されている。自然生態系の保護に反する原発など許されない。

9   再エネ事業はすべて善か?

 林野庁のいう天然林はCO₂吸収力が弱いので伐り若い木を育てる、というのは自然保護の観点で本末転倒である。また、再エネ事業(大規模風車、メガソーラー)で山の切り崩しによる土砂災害の危険性や低周波被害などの公害の発生などが起きている。いずれも、社会的弱者の地域に建設されていて、これは平等に反する。

10  地域ごとのエネルギー事情の検討を

 日本では、今の電力事情が大前提で、全国の電気はどれほど必要で、それをどこで発電するか、と考えている。しかし、ドイツでは地域の住民が集まって、どうやって地域で電気を作るかを決める。例えば松山で必要な電気は松山で作る、という法制度を住民が作っていかなければならない。そうしないと弱い地域にしわ寄せがくる。

11  最終処分場の問題

 北海道では寿都町と神惠内村が核のゴミの受け入れを表明している。一度受け入れるとその中で次の調査に移る。終わるとその調査の範囲内で対象を絞られる。

 地層処分となっているが、くずぐすの地層でそれが適切かどうかわからない。これは全国の問題である。どういう処分をしたらいいか、もう一度ゼロから議論して変えていかなければならないが、全国の人々には「我がこと」として、まだとらえてもらえない状況だ。しかし、地下に埋めたら訳がわからなくなる。地層処分でいいのか。いずれにしても、まずはこれ以上、核廃棄物を増やさないことだ。そのためには原発を動かしてはならない。